市役所に努めるちょっと気弱な青年と、神様からのギフトのような心優しい犬との絆を描いた映画『ハウ』(2022年8月19日公開)。主人公を演じた俳優、田中圭さんに、もうひとりの主人公を演じきった犬のベックとのふれあいを通じて、大切なものとの愛おしい時間、そして、それを失った時の絶望との向き合い方について、語っていただいた。

(C)2022「ハウ」製作委員会
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「末恐ろしい」とさえ思った共演者の名演技

ある日、婚約者にいきなり別れを告げられた男。それがこの映画の主人公、赤西民夫。ちょっと気弱な民夫は失意のどん底で結婚式場をキャンセルし、職場の上司に事情を報告する。すると、上司は何を思ったのか、民夫に一匹の白い大型犬を引き合わせ、飼うことを勧める。じつは上司の妻は犬や猫の保護活動をする団体のスタッフで、その犬は飼い主に捨てられた保護犬だった。捨てられた男と、捨てられた犬。このひとりと一匹の出会いから物語が動き始める。その犬は「ワン」と鳴くことができず、「ハウッ!」というかすれた声しか出せなかった。それで民夫は犬に「ハウ」という名前をつけた。

犬と人とのふれあいがたっぷりと描かれるこの映画、民夫を演じる田中圭さんは犬が大好きということもあり、ハウを演じるベックとの撮影は、終始、楽しくて奇跡のようだったという。

「僕自身、こんなにきちんと犬とお芝居をするのは初めての経験でした(笑)。ベックはとても頭のいい子で、現場でも、僕のことを“共演者”と理解してくれていたと思います。ベックは映画初出演とは思えないどころか、監督の“用意スタート!”の声で、本当に雰囲気が変わるんです。それで、“カット!”となったらまた一瞬でハウからベックに戻る。これには驚きましたし、彼は“本当に俳優なんだな”と何度も思い知らされました」

久々に再開した田中さんとハウ役のベックくん。撮影/嶋田礼奈

田中さん自身、最初に映画の台本を読んで、「いや、これ(ベックに)できるのかな」と首をかしげる部分も多かったという。

「(相手は犬なのだから)普通に考えて、カメラ目線ひとつもらうことからして、簡単ではないと思いました。思うようにはいかないし、決まった立ち位置に立たせること自体も大変で。民夫とハウで見つめあうシーン、といっても、ずっと見つめていることも難しい。“ここで鳴く”と書いてあっても、いざそのタイミングで鳴けるのかどうか……そんな感じで、“めちゃくちゃ難しいよね、これ、一体どうなるんだろう”と思うところも、正直、たくさんありました。

でもそんな心配をよそに、ベックは普通にできるんです。完成した作品を見て、僕は本当に驚きました。そこにベックはいなくて、もうすっかりハウでした。すごいなと。もちろんドックトレーナーの宮さん(※数々の動物の出演映画にも参加している名ドックトレーナーの宮忠臣さん)の技術や、ベックとの確かな信頼関係も大きかったと思います。ベックも相当にあっぱれ、です。撮影当時、ベックは1歳4ヵ月だったのですが、“末恐ろしい共演者”、でしたね(笑)」