今、なお脅威の「マラリア原虫」年間2億数千万に感染する戦略とは?

感染症の病原体 プロファイル【2】

新型コロナという感染症の流行真っただ中にいる今ですが、ほかにも恐ろしい感染症はたくさんあります。そのなかで世界三大感染症と呼ばれるものがあります。結核、AIDS(HIV感染症)、そしてもう1つがマラリア(Malaria)です。

マラリアは三大感染症のなかで、年間の新規感染者が最も多く、WHOの推定によれば毎年約2億4000万人が感染し、死者は約63万人にも及ぶのです。熱帯病だと思われがちですが、日本でも流行したことがあり、昨今は輸入マラリアの危険もあります。

『最小にして人類最大の宿敵 病原体の世界』を執筆された微生物学者の旦部幸博さんと北川善紀さんの解説で、病原体たちの「見事な」までの戦略、生態をご紹介するシリーズ、今回はマラリアの病原体「マラリア原虫」について説明しましょう。

今も幼い命を奪っている

マラリアは、マラリア原虫による原虫感染症で、ハマダラカという蚊の仲間によって媒介されます。

マラリア原虫が体内に侵入すると、1週間~4週間の潜伏期間を経て発症します。典型例では、三大主徴と呼ばれる、周期的な発熱と貧血、脾腫が起こります。しかし、風邪やインフルエンザに似た呼吸器症状や、消化器症状、種々の合併症を引き起こすこともあり、その病態は実に多様です。

症状とマラリア原虫の体内での増殖機構との関係については、後ほど詳しく解説していきます。

現在、マラリアは、アフリカや中南米、南アジア、東南アジア、中東、オセアニアなどの熱帯または亜熱帯地域で広く流行が見られます。特にアフリカ大陸の中部から南部に至るサブサハラ地域は深刻で、死者の約96%が集中しています。死者の約8割は5歳未満の小児で、サブサハラ地域における小児の主要な死因になっています。

【写真】死者の約8割は5歳未満の小児で、サブサハラ地域における小児の主要な死因になっ死者の約8割は5歳未満の小児で、サブサハラ地域における小児の主要な死因になっている(写真はイメージ) photo by gettyimages

「暑い地域特有の病気」という誤解

マラリアは、イタリア語の「mal(悪い)aria(空気)」に由来しますが、感染経路は空気感染ではなく、カ(蚊)の吸血によるベクター感染です。中でもハマダラカ属Anophelesの蚊に限られます。漢字では「羽斑蚊」と書き、羽根に白黒のまだら模様がある仲間です。現在、蚊の仲間全体で約3500種が同定されていますが、430種類以上がこのグループで、そのうち約30〜40種がマラリアを媒介します。

【写真】ハマダラカハマダラカ illustration by gettyimages

マラリアについて誤解されていることの1つに、マラリアが熱帯〜亜熱帯で流行するのは媒介する蚊がその地域だけに生息するせいだ、というものがありますが、ハマダラカは世界中に広く分布する蚊です。

事実、20世紀初頭までは日本やシベリアなど、温帯や亜寒帯でもしばしばマラリアの流行が見られました。また、北朝鮮には今もなおマラリアが常在していると見られ、そのためにマラリア原虫を持った蚊が軍事境界線を超えて南下し、韓国の江原道や京畿道などでも患者が発生しています。

マラリアの流行は温暖な地域に限局するというより、害虫対策や居住環境、サーベイランス体制などが未整備な地域で見られる貧困病と捉えるべきでしょう。言い換えれば、紛争や災害などによって、そうした体制が機能不全に陥れば、どこでも(南極などハマダラカが生育できない一部地域を除き)マラリアが再興する可能性があるのです。

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