「雑な話」で子どもたちを勇気づけよう
「少子化、格差問題、非正規雇用、ブラック企業、環境問題……などという怖い話ばかりを聞かされて、いまの子どもたちは未来に対してまるで希望をもてていません。親世代の想像を超えたレベルで彼らは絶望しています。同時に語られる親世代の“ふつう”と“偏差値”が“べき論”を構成し、彼らを縛っています。だからものすごく保守的な価値観をもっている子どもが多い。それは、高校生のなりたい職業の一位が公務員であることからもわかると思います。それなのに他方では、勉強ができるだけでなくてもっと主体的に協働的にそして創造的にならないとこれからの先行き不透明な時代には生きていけないぞと脅されて、始める前から『もう無理だよ』と思ってしまうわけです。『落合陽一にはなれないよ……』みたいな」
じゃあどうすればいいか。
「僕らは『雑な話』をしてくださいって言っています。保護者が自分のリアルな仕事の話をするのはオッケーです。たとえばこのまえ大型案件の受注が決まったんだよねと。でね、相手の会社の担当者も喜んでくれて、いっしょに飲んだんだよ。ビールをね。銀座でね。そのビールがサイコーだった!って。子どもでも手触りが感じられるように、大人の世界の楽しさを語ってあげてほしいんです。競争社会の厳しさとか、仕事の社会的意義とか、意識高い話は要らないんです」
経済成長は止まったままだし、環境問題は深刻だし、戦争は起きてるし、社会的な状況を全面的に改善することは非常に難しいけれど、それでも何気ない生活のなかの身近なところに、絶対的な幸せであったり喜びであったりというものが確実に存在しているってことを、大人たちは子どもたちにもっと伝えなければいけないのかもしれません。子どもたちの将来を心配するあまり、私たち大人はそれをサボってきたのかもしれません。
ビーンズメソッドを全国の悩める10代に一気に届けるのは難しいかもしれませんが、生きる実感の手触りを子どもたちに伝えることなら、誰にだってできるはずです。それができれば、彼らがこの時代に生まれたがゆえに背負わされてしまっている重荷を、少しは軽くしてあげられるのではないでしょうか。
平日の昼間の居場所、ホームスクール、不登校専門塾、通信制高校、フリースクール、教育支援センター、不登校特例校……教育ジャーナリストのおおたとしまささんが「不登校でも学べる」環境を作るために奔走する現場を徹底取材。実際にこれは伝えたいと思う現場と、不登校の実例を、多くのデータと共に提示している。「学び」に対する考え方を変える一石になる一冊。