日本の映像業界に起きた#MeTooから半年ほど経ったいま、業界に変化はあったのか。#MeTooをきっかけに注目されているのが、インティマシー・コーディネーターという職業だ。インティマシー・コーディネーターとは、ヌードシーン、キスシーンやセックスシーンなど親密な(インティマシー)シーンを撮影するときに起用される専門家。2019年にアメリカで誕生し、日本にはまだ2人しかいないインティマシー・コーディネーターの一人が、西山ももこさんだ。

西山ももこさん
西山ももこ プロフィール
1979年8月23日、東京都生まれ。高校、大学時代にアイルランドで学び、チェコのプラハ芸術アカデミーでダンスを軸に表現活動を学ぶ。2008年に帰国し、翌年からアフリカ専門の撮影コーディネーターに。2020年にインティマシー・コーディネーターの資格を取得し、国内外の作品に携わる。

#MeToo後の日本の映像業界の問題を指摘するインタビュー前編に続き後編では、日本が抱える「インティマシー・コーディネーターを導入する以前の問題」について語ってくれた。

インティマシー・コーディネーターへの「過剰な期待」に困惑

――今年6月に「AV出演被害防止・救済法」が参院本会議で成立しましたが、その議論にも「インティマシー・コーディネーターの導入」が出たことを、西山さんはどう捉えましたか?

西山:正直、インティマシー・コーディネーターが免罪符にされているような気がしました。出演強要などの問題は業界の構造的なもので、インティマシー・コーディネーターを導入して解決できるものではないし、悪質な会社ほど導入しないでしょう。

そもそも、参考資料などを探すときはポルノのセックスシーンは参考にしないようにとIPA(Intimacy Professionals Associations)で決められているんです。ポルノのほとんどが性的ファンタジーだからです。AVの場合、もちろんインティマシー・コーディネーターとして俳優と監督の同意を調整する役割は担うことはできますが、実際何ができるのか疑問です。
AV新法のことだけでなく、日本ではこの仕事に過剰な期待をされているように感じます。

 

――具体的にどういことでしょうか?

西山:多いのが、「インティマシー・コーディネーターを雇えば、作品から性差別がなくなる」という誤解です。例えば、「壁ドン」や「腕を引っ張って無理やりキス」などの「性的同意」がない恋愛描写や、最初は男性の接触を嫌がっていた女性がだんだんその気になっていく……といった不自然で女性差別的な表現を脚本に見つけたとします。その場合、私は監督やプロデューサーに「この表現はおかしいのではないか」と意見することはできますが、それを変える権限はありません。

インティマシー・コーディネーターとして親密なシーンにおいては性差別のない演技指導や振り付けをしますが、その前後に性差別的な演出があれば作品は当然問題視されます。だから、「インティマシー・コーディネーターを雇ったからこの映画はジェンダー平等だし、ハラスメントとは無縁」だと安易に制作側にも観客側にも捉えてほしくないのです。