子どもが「越境」することで得られるもの
特にコミュニケーション面については眼を見張るものがあった。日常とは異なる環境で知識や経験を吸収しただけでなく、新しい環境に飛び出すことで「自分のことを伝える・説明する」という気持ちが芽生えたのではないかと感じている。
保育園最終日に迎えに行くと、お友だちと握手やハイタッチでお別れをした。これは、東京の保育園では同級生の握手も恥ずかしがっていた息子には考えられないことだった。
なお、東京に戻ってきて少し経つが、「ばった」「せみ」「おんせん」など、明らかに西会津の会話の中で覚えたと思われる言葉を話す。西会津で得た経験は、確実に子どもの中に残っていると思われる。

昨今、人の生き方や人材育成において、「越境」というキーワードを聞く機会が増えた。異なる環境に飛び出すことで、新たな経験や知識、人のつながりを得て、さらに活躍していく生き方だと筆者は理解している。
厚沢部町が始めた「保育園留学」は、まさに幼児版の「越境体験」なのではないか。日常とは全く異なる環境に飛び込み、新しい仲間たちを作り、自分の枠を広げる。非日常は、より深く己を知るチャンスでもある。
そして再び日常に帰り、越境先で得たものを糧に、また成長していく。そういった循環の中で、自分の「好き」や「得意」や「心地よい」を見つけて、自分という人間に向き合い、誰のものでもない自分の道を切り拓いていってほしい。
西会津町は、私たちの体験を受けて、今後も同じような家庭を受け入れるか検討中だ。厚沢部町を視察する自治体も多数あると聞く。この「保育園留学」という取り組みが全国各地に広がることを期待する。
なお、厚沢部町の「保育園留学」は大好評のため受け入れ体制を強化し、我々も調整の結果、2022年9月後半からお世話になることになった。「はぜる」を気に入っていた息子も心待ちにしている様子だ。
本家本元の「保育園留学」を体験して、彼がまた、新しい刺激を受けて楽しく過ごせることを、親は切に願っている。