今、ジュエリー需要の動向に目が離せない。矢野経済研究所によると、2020年の国内宝飾品(ジュエリー)小売市場規模は、コロナ禍前である2019年の2割近い落ち込みだったが、2021年にはリベンジ消費などもあり、前年比117.4%の9624億円に回復、さらに2022年は前年比104.1%の1兆14億円が予測されている。(出所:株式会社矢野経済研究所「宝飾品(ジュエリー)市場に関する調査(2022年)」(2022年3月1日発表))
これは主に富裕層が資産防衛の意味合いで、高品質なダイヤモンドや地金などに需要が高まっていることも関係しているが、一方でコロナ禍による経済不安や、心の安寧を求めて、働く女性たちからもジュエリーへの関心が高まっている。 実際にコロナ禍に入ると、20~40代向け女性誌では「ご褒美」「自己投資」を謳ったジュエリー特集がたびたび組まれ、ダイヤモンドや地金はもちろん、カラーストーンのジュエリーも若い層から注目を浴びている。
そんな大きく揺れるジュエリー業界に、小さな帆を張って歩み始めたブランドがある。7月中旬にデビューしたばかりのジュエリーブランド「Adlin Hue(アドリン ヒュー)」だ。
このブランドが面白いのは、公式サイト内ではコンセプトを語らず、「地球上に既に存在する貴重な資源を最大限活用してジュエリーを制作しています」と事実のみを綴っていること。「SDGs×ファッションのミライ」第2回では、この「Adlin Hue」がどのような信念を持って立ち上げられたブランドなのか、オーナー兼デザイナーの安部真理子さんに詳しくお話を伺った。

不当な労働環境にも環境破壊にも加担しないジュエリーとは
元「ARTIDA OUD(アルティーダ ウード)のディレクターとしても活躍されていた安部さんが、イチから立ち上げた「Adlin Hue」。どのような経緯で作ろうと思ったのか。
「今までもジュエリー業界に携わってきたのですが、ジュエリーを製作する中でデザインを追求するだけでなく、『トレーサビリティの低い石を使うことがどういうことなのか』にも目を向けるようになり、自分のなかで“後ろめたさのない”新たな価値のジュエリーを提供したい、そんな想いで始めました」
トレーサビリティとは、その原石がどの国で採れてどのような工程で製作されたのかがわかる、いわば原産地証明。特にダイヤモンドは、採掘場のあるアフリカではかつて、武器を買う資金源ともされていて、幸せの象徴であるはずのダイヤモンドを利用してたびたび紛争が起きたことから、『「紛争ダイヤモンド」「血塗られたダイヤモンド」とも言われていました』と安部さんは言う。
「アフリカではいわゆるチャイルドレイバーと呼ばれる子どもの労働者が危険な採掘場で働かされることもあったそうです。現在はすべてクリアーになったかというと、定かではありません。だからこそ正当ではない労働環境で採掘された石を買って加担することがないよう、トレーサビリティが重要とされています。
とはいえ、そもそもダイヤは地表近くのものはすでに採り尽くしてしまっていて、かなり奥深くまで掘り起こさないと見つからない……つまり、それだけ大量の土を掘り起こして、何台もの数トントラックで運ばなきゃならないわけですよね。それだって環境破壊につながるのではと思っていて、ならば、不当な労働環境にも加担せずに環境破壊にもならない、すでに地上にある石や地金を使いたいと思ったのがブランド立ち上げの一番の理由です」