2022.09.14

コーヒーはなぜ「珈琲」と書く?
そこにある日本人の詩的なコーヒー観

文字が伝える日本のコーヒー文化

多くのひとが毎朝欠かさず飲むコーヒー。
日本ではその消費量は年々増えつづけ、最新の調査では年40万トン超。一人あたりを計算すると、1週間で11杯以上もコーヒーを飲んでいることになる。
そんなコーヒー大国の日本だが、初めて持ち込まれたのは18世紀末。
オランダからやってきたこの魅惑の飲み物を表現するために、日本人はさまざまな漢字をあててきた。そこには日本人の詩的なコーヒー観が見え隠れしている。
日本のコーヒー研究に莫大な影響を与えてきた幻の名著『日本の珈琲』。待望の復刊をはたすこの書物から、日本のコーヒーの歴史をのぞいてみよう。
(※本稿は奥山儀八郎『日本の珈琲』を一部再編集の上、紹介しています)

「珈琲異名熟字一覧」 なんと63字

『日本の珈琲』の作者である奥山儀八郎は、さまざまな文献からコーヒーの日本語表記を拾い集め、ひとつの版画作品にまとめている。
多くの書物に引用されてきたこの版画を見れば、コーヒーが日本語としてどのように書きあらわされてきたか、その歴史が一目でわかる。

コーヒーに当てた異名熟字は発見次第に集録して、昭和十七年、番外共四十三字を以って熟字一覧初版を出した。同三十一年増補して、五十七字となり、三十九年第三版として六十三字となった。

これを見ると一見甚だ乱雑に手当り次第に、いわゆる「当て字」を使ったように見えるが、無学の船頭とか遭難漁船の漁夫とかが、「雁喰豆[がんくいまめ]」とか「山牛旁[やまごぼう]の実」とかいうが、注意して見ると、一定の拠り所あって、訳字を当てていることが判明した。

静岡の葵文庫に、旧幕府時代の徳川家楓山[かえでやま]御文庫や蕃書[ばんしょ]調所や開成所所蔵の外国辞書類が数多くあり一見することができた。

これ等の中に、ロバート・モリソンの著『英支字典』Dictionary of the Chinese Languageや単に『字典』とあるもの、『五車韻府』Dictionary of the Chinese Languageとあり、これもロバート・モリソンの著である。

江戸時代の蘭学者はこれ等の辞典によって英文字または蘭語の単語には、どの漢字を当てるかを調べたものと思う。

試みに前記のいろいろな熟字をその発音記号により「字典」から拾ってみる。

哥Ko 茄Kea 吉He
可Ko 迦Kea
各KQ 架Kea 琲PHae or Pei
茄KeA 歌Ko 否Pe or Pei
珈KeA 珈琲Kea Feci Coffee
非Fe 兮He 加Kaoo

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「珈琲」という字はすばらしい

漢字は表意のものと表音のものと二様あり「珈琲」の二字はそれが表音にかない、表意に通ずることが知られる。
康熙字典に、こうある。

珈 タマのアヤ 琲 石珠に似たり

「珈」はこうがいの飾り玉などを垂れ下げたもので婦人の髪かざりのことである。「琲」は玉の緒、即ち球を貫くヒモのことである。

珈琲樹は一本の枝の長さ一メートルから一メートル五十あり、栗の葉のような光沢ある葉が対生して、葉の長さ二寸ばかり、枝の元の方から対生の葉の間に白色の可憐な花が群がり咲きつつ順次に枝の先へ先へと咲き進む。

花弁は五枚で筒先きで、その香りはジャスミンに似て優しいものだ。花散れば実となる。実は初め緑色で、次いで黄色から橙色となり、真紅となりついに濃紫色となる。
これが枝の元から尖端まで葉間に紫、赤、橙、黄、緑色の実が鈴なりとなり、尖端には白い花がむらがり咲いているありさまは、まこと、この枝一本の姿は花かんざしに例えることができる。

この文字の作者は心あってこの熟字を当てたのか、それは判らない。しかしこの人は学者というよりむしろ、詩人で画家の魂をもった人だと思う。

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