国民的女優・泉ピン子さんの連載がスタート。人生相談や時節を感じさせるテーマなどをピン子さん流のユーモアを交えながら、ざっくばらんに語っていただく連載です。「人生、いい日もあれば悪い日もある」とピン子さん。これからどんなお話が聞けるのか、乞うご期待!  第2回のテーマは「自分を守るときのハナシ」。

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一人暮らしして最初に買ったのは防犯ベル

物騒な世の中だよね。一国の元首相が銃撃されたり、通り魔殺人なんかがあったり、電車の中でオイル撒かれたり、切り付けられたり。いつものように朝起きて、出かける支度をしているとき、誰が、「自分は今日通り魔に襲われて死ぬかもしれない」なんて想像する?

日本の安全神話が崩壊しつつある、なんて言われてるけど、通り魔事件がここ10年の間に一気に増えたっていうわけでもないと思うし、高度成長期の、経済が右肩上がりの時代だって殺人はあった。“死”っていうのは、意外と身近なことで、突然の事件や事故に巻き込まれることだって、誰にもありえることでしょ? 「物騒な世の中」なんていうのは、別に、今に始まったことじゃない。私が漫談家として独立して、家を出て一人暮らしを始めたのが16歳のとき。キャバレー周りで帰宅時間が遅いから、夜の帰り道は、変なやつに襲われないか、本当に用心したよ。

最初に住んだのが不動前のアパートで、ものすごく暗い目黒川の脇を通って帰らなきゃならなくて、最初に交番に行って買ったのが防犯ベルだった。首からぶら下げる笛みたいな感じで、ストラップを思い切り引っ張れば、すごい音でアラームがピーって鳴るの。暗闇の中だから、ブスとか関係ないし。だいたい自分ではブスなんて思ってないんだから、「なんかあったら、これで助けを呼ぼう」って、毎日、仕事場への行きと帰りには、その防犯ベルを首にぶら下げてたの。

でもある朝、山手線から地下鉄の乗り換えで、エスカレーターを降りていたら、ギターのケースと荷物の間に、防犯ベルのストラップが引っかかって、下向いて上向いた一瞬で、抜けちゃったことがある。

「ピーーーーーッ」って、ものすごい音がして、慌てたんだけど、両手が塞がってるし、どうしようもなかった。それで、下りエスカレータに乗っていると、上りエスカレーターの人の顔がよく見えるじゃない? そのとき、エスカレーターに乗っていた背広を着たサラリーマン全員が私の方を見て、「お前みたいなブス、誰も狙わないよ」っていう顔をしてた……。舌打ちする人もいた。しょうがないから、下に着くまで、必死で顔を伏せて、自分のTシャツとジーパンとギターケースを見つめてた。あれは、トラウマになったね。今でも、その光景が目に浮かぶもん。