心臓弁膜症との戦い
渡邊医師が手掛ける心臓手術で最も多いのは弁膜症と冠動脈バイパス、動脈瘤だが、動脈瘤ではダビンチはほとんど使わず、従来型の小切開手術となる。
ダビンチを使った手術症例は弁膜症の僧帽弁形成術が685件と最多で、さらに冠動脈バイパス191件、僧帽弁形成+三尖弁形成135件、心房中隔欠損閉鎖98件、三尖弁形成20件、腫瘍切除16件と続く。
「弁膜症は僧帽弁の閉鎖不全による逆流と大動脈弁の逆流、狭窄症がほとんどです。
僧帽弁は心臓の中にある左心房と左心室の間にある弁で、これが開閉することで肺から来た血液が心臓の僧帽弁を通って入り、心臓の収縮と供に全身に回る仕組みになっている重要な弁です。
ところが、僧帽弁を構成している弁尖や腱索、乳頭筋などが何らかの原因で弁尖が裂けたり穴を開けたり、腱索が切れたり伸びたり、乳頭筋が傷ついたりする、心臓の収縮期に弁がぴたりと閉じなくなる。こうした収縮期に左心房への血液の逆流が生じるのが僧帽弁閉鎖不全症です」

渡邊院長が続ける。
「初期症状は息切れですね。階段や坂道を上がったり走ったり、あるいは自転車をこぐと息切れがする。夜中に小水で度々起きてしまうなど心不全の兆候も出てきます。
さらに進行してくると、心房に血液が多く逆流してくる結果心房が肥大し、心不全が現れます。そこで脈が不正になる心房細動の症状が出始める。こうした場合は根治に向けた治療が必要になります。そして、超音波検査で50%以上の逆流が見られる場合は手術適応となります」
一般的な心臓心臓外科手術は人工心肺で心臓を止め胸骨を真ん中から大きく切開して手術をする胸骨正中切開手術。胸骨は切らずに胸のわきの乳房の下を6~7cm切開する小切開手術(MICS)、そして内視鏡を使った内視鏡手術、その延長でのロボットを使い内視鏡を遠隔操作して手術をするダビンチ手術の3つの方法がある。
開胸手術では胸の真ん中を喉元からみぞおちにかけて切るため約20cmから30cmの傷が残り、骨を切って胸を大きく開くため、術後に骨が付くまで数ヵ月かかる。この間スポーツなど運動は出来ず、大きな荷物も持つことは出来ない。それでも90%以上の心臓手術が胸骨正中切開で行われているのが現状だ。

これに対し切開する範囲を最小限にとどめ、骨を切らず傷跡を小さくするのが小切開手術。そしてロボットを用いて完全内視鏡による手術を行うのがダビンチ心臓外科手術だ。
「医者になって以来考え続けてきた患者さんへの超低侵襲手術の集大成がダビンチを使って行う全内視鏡手術・鍵穴(キーホール)手術です。手術中の輸血量は胸骨正中切開ではどうしても500ccは使う。MICSは200cc使いますがダビンチは50ccで無輸血もある。輸血はすればするほど寿命は短くなります。輸血量は患者さんのその後の人生に大きく影響してくるんです」(渡邊医師)