旅行業界の風雲児・HIS澤田秀雄会長がハウステンボス売却へとつながった40億円の詐欺被害

巨額の資産をめぐる骨肉の争い(6)
日本を代表する有名企業をつくった「創業社長」には、どこか共通するカリスマ性がある。しかし、創業社長のカリスマ性が大きければ大きいほど、その去り際、そして去ったあとには、巨大な陥穽が残されることになる。
経済事件取材のトップランナーである筆者が、その圧倒的な取材力と筆力によって構成する最上級の経済ノンフィクション『亀裂 創業家の悲劇』から、旅行業界の風雲児・HIS澤田秀雄会長の詐欺被害をお届け。
リア王やマクベスを地で行く、裏切りと転落のドラマ。

秘密取引に魅入られて

じつは、(HIS創業者・)澤田(秀雄)も前章で詳述したコロワイドの蔵人金男と同様、巨額資金提供話で大火傷を負ったところだったのである。話は2018年2月に遡る。「先生」から要求された審査関係者への賄賂1億8000万円について、蔵人がはたして払うべきかどうか悩んでいた頃だ。関係者がエクセルで作成した詳細な時系列のメモがあり、それに従って事実経過を記していくことにしよう。

その月の5日、「東京プリンスホテル」の3階にある喫茶ラウンジに4人の男が集まった。まだ30歳そこそこながら香港を拠点に金取引業を手掛ける石川雄太がこの日、初めて会ったのは都内の金融コンサルティング会社で社長を務める男性で、その場には石川の古くからの知人と、その縁で2年ほど前に面識を得ていた名古屋在住の経営者も同席していた。

HIS創業者・澤田秀雄氏 Photo by GettyImages

「財務省とのミーティングを毎週水曜に霞が関で行っている」

金融コンサル会社社長はそう話し、リクルートホールディングス株の取引を持ち掛けてきた。財務省が極秘に保管する大量のリクルート株が存在し、それを1株1650円の破格値で売り渡すことが可能なのだという。さらにそれを野村證券が市場で付いた株価の1割引きで買い取る出口まで用意されているらしい。その頃の株価からすると、1株600円もの利ざやが抜ける計算だった。ただし、この取引に参加するには「復興支援金」としてデポジット4億5000万円が必要とのことである。

当たり前のことだが、財務省が極秘に保管するリクルート株などあるはずもない。言ってみれば、「M資金詐欺」の一種であり、その商材として「リクルート株」の名が騙られるというのは、じつのところ、その道ではかなりポピュラーな話だった。だがこの時、石川は得も言われぬ秘密取引にすっかり魅入られてしまう。

 

さっそく3日後に必要資金を用立てるため話をつないだ先が澤田だった。両者はそれ以前から金取引で親しい関係にあった。澤田が本拠とするエイチ・アイ・エスのテーマパーク子会社「ハウステンボス」は50億円相当の純金を購入し、集客の目玉として「黄金の館」なる絢爛豪華な展示施設を開業するなどしていた。石川から話を聞いた澤田は秘書の海津誠之を交渉に当たらせることにした。

3月18日、海津は新宿のエイチ・アイ・エス本社で石川と金融コンサル会社社長に会い、取引の詳細について説明を受けた。かつて石川を澤田につないだ若手経営者もその場には同席していた。この時、海津に行われた説明では、リクルート株取引が実行されるのは3月末だという。後日、「リクルートH株式売買スキーム」なる資料もメールで送信されてきている。もっともこの時、澤田はあまりに時間が短いことを理由に同月28日夕方に取引を見合わせたい旨を連絡し、いったんは話を断っている。

ただその後も金融コンサル会社社長からは例のデポジットを支払うよう催促が続いた。4月13日、石川は自身で2億円を用意し、約束の場所である三菱UFJ信託銀行本店の社員通用口付近に使いをやり、それを手渡している。このことを石川は澤田に伝えた。その結果、断ったはずのリクルート株取引は仕切り直されることとなった。

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