ヤングケアラーとは、家に病気だったり、年齢などで世話をしなければならない人がいて、本来受けられるような教育などにも影響が出ている18歳未満の子どもたちのことを指す。にしおかすみこさんは18歳未満ではないけれど、現在実家で家族と暮らす。

そんなにしおかさんの連載「ポンコツ一家」が始まったのは2021年9月20日。その冒頭で自身の家族のことをこのように紹介している。
「母、80歳、認知症。
姉、47歳、ダウン症。
父、81歳、酔っ払い。
ついでに私は元SMの一発屋の女芸人。46歳。独身、行き遅れ。
全員ポンコツである」

母親も、姉のケアをずっとしていた。その母親が認知症になった。そして今にしおかさんが中心となって家族の面倒を見ているのだ。その状況を率直に綴る連載13回は、ちょうど連載が開始された2021年9月20日、姉を病院に送り出したときのことをお伝えする。

2021年9月20日に始まった連載。この連載が始まった日ににしおか家で何が起こったのか。
にしおかすみこさん連載「ポンコツ一家」これまでの記事はこちら
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2021年9月20日朝5時

2021年9月20日
朝5時に起きるのが習慣になった。重たい瞼を擦りながら、のそのそと1階へ降りる。

真新しい薄紫のブラ付きキャミソール、着古した肌色ショーツ、ぎっくり腰用のコルセットをお腹に緩く巻いた婆さんが、麦わら帽子を持って下駄箱の前でフリーズしている。
玄関の小さなすりガラスから入る朝日を受け、後光がさしたようだ。
……一発屋のイロモノの神様ってこんな感じだろうか。頭が今日も始まる現実をまだ見ようとしていない。

神様が言う。「散歩に行こうと思って」

ん?シャッキリ目が覚める。「その恰好で?」

「だからあ、運動不足だし、腰が固まったままは良くないだろう?でも暑いし、この上から服着て歩くかと思ったら行く気しなくてね。でもあんたがせっかく買ってくれた下着だしね。そこでね、家の中ではブラジャーして、外はなしでいいかねえ」

「逆だよ」

「え?逆じゃないよ。家はクーラーあるから、外は汗だくになるでしょう。クールビズ?国会だってネクタイしない人いるだろう。一緒さ」

「……軽装と軽率は、全然違うよ」

「ママ、あんたが何言ってるのか全然わからない」と澄みきった目を私に向けてくる。
結局下着の上からTシャツに長パンツ、麦わら帽子を被り、すでに汗で溶けそうな顔を向け「この姿覚えておいて。畑の道で死んでたら、事件じゃない、暑さよ。大騒ぎしないでね。じゃあいってきます」

待て。待て。命がけで散歩に行くな。ブラありの母をブラなしの私が追いかける。ついでに並んでのんびり歩く。木陰を選ぶと、生い茂った木々の間から、カナカナカナとヒグラシの合唱が降ってくる。そんな事どうでもいいとばかりに私達を笑っているかのようだ。

写真はアブラゼミです Photo by iStock