ベストセラー経済学者が描く、株式市場も強欲な大株主もいない世界

資本主義ヒエラルキーの権力こそ本当の敵だ

1人1株で大株主の力を削げ

その意味するところは極めて重大だ。資本主義が始まって以来、政治領域と経済領域とが再統合を果たしたのだ。資本主義の前には、政治権力と経済力は同じ人物が握っていた。王子は裕福であり、裕福なのは王子だけだった。政治権力は強制か征服によって、無条件に他者の富を搾取する力を意味した。そして、その強制力は称号、城、王権やティアラになった。

ところが、そこへ資本主義が登場してなにもかも変えてしまった。国際的な交易路が開かれたことで、新興階級の商人が誕生した。彼らは経済力を誇ったが政治的な影響力はなく、社会的な地位も低かった。こうして史上初めて、政治権力と経済力とが分離したのである。その分離が決定的なものとなったのは、商人が産業界の、そして最終的にはグローバル金融やテクノロジー業界の大株主へと進化した時だった。長い論戦を重ねて、コスタにそう指摘したのはアイリスだった。

その意味において、1人1株1票はまさに革命的だった。政治領域と経済領域の再統合に向けた大きな一歩だったからだ。コスタの世界では、1人1票に基づいて政治家を選んで権利を行使する。だが、株主総会では保有株数に応じて議決権が与えられる。そのため裕福な者ほど多くの株を所有でき、より多くの議決権を行使して、みずからの利益を追求できる。となると一般的に、株を大量に保有する個人か機関の配当を最大化することが企業の戦略になる。

そしてその結果はたいてい、社会の─時としてその企業自体の─長期的な利益を犠牲にして、大株主の短期的な利益を確保することになる。そのようにして、少数の大株主はますます多くの株を保有でき、それがますます彼らに多くの株を保有する力を与えてしまう。これが雪だるま式に続いていく。

コスティの世界では対照的に、1人1株だけであり、議決権もひとりひとつだけだ。企業の構成員全員がその議決権を行使して、経営計画や事業計画から純収入の配分にいたるまで、戦略的に重要な問題の決定に加わる。1人1株制度は、所得の不平等を劇的に是正するだけではない。平等な権限を行使することで、短期の個人的利益ではなく、長期の集団的利益につながる意思決定が下せる。また、市場での支出は一種の投票でもある。

たとえば、A社のヨーグルトではなく、わざわざB社のヨーグルトを購入する時、私たちは社会の経済力の一部を、A社ではなくB社に与えたのだ。所得が比較的平等であるコスティの世界では、限られた資源を社会がどの製品の製造に充てるのかについて、より平等な発言権が約束されている。

そのような利益をコスタもすぐに理解した。だが、疑問もあった。そもそも起業するために必要な元手はどうやって集めるのか。コスタの世界では、スタートアップは株式市場で資金を調達する。実際、株式市場のおかげで、そのスタートアップがいまだ1ドルの儲けも出していないうちから、株式保有者は大金を手にできる。だが「株式市場がなければ」コスタは訊いた。「どうやって資本を形成して、蓄積すればいいのだろうか」