
貧困がなくならないのは、皆の財産を誰かが奪っているからでは?
ベストセラー経済学者が構想する究極の格差解決法株式市場がない世界
事業には人材と資源が必要だ。コスティの世界の新規採用システムには、確かに自発性や民主的な特徴はあるにせよ、コスタの世界のシステムとさほど大きな違いはない。ところが、資源の配分においては著しい違いがあった。
コスタが労働市場から自分を解放する前、彼が勤めた会社はどこも、企業に対する忠誠心を示す踏み絵として、事実上、自社株の購入を迫った。そして入社すると、実際に株式購入選択権を提示された。これは、あらかじめ定めた低価格で自社株を購入できる、合法的だが取り消しの利く権利だ。取締役や従業員を裕福にする強力なツールである反面、懲罰的な仕掛けでもある。おいしそうなニンジンを鼻先にぶらさげておいて、上司が絶妙なタイミングでその餌を引っ込めることもできる。
いっぽう、コスティの世界は対照的だった。コスティは採用が決まったその日に株式を1株、当然のように与えられた。もちろん無料で。なんの条件もなく。学生が図書館のカードを手渡されるか、新入社員がセキュリティ用の社員証を支給されるように。企業の株を余分に購入しようなどという考えは、コスティには思い浮かばなかった。実際、1人1株制度は非常に評判がよく、株を売ったり買ったりするという考えは、議決権か愛する赤ん坊を売買するのと同じくらい言語道断なものだった。

それに対して、コスタの世界では株式市場を通じて、個人の銀行口座のものであれ、大きな年金基金のものであれ、保有資産を投資に活用でき、その重要なメカニズムを使って企業が生まれ、大きく成長できた。だが株式市場がないコスティの世界では、どうやって保有資産を活用するのだろうか。企業はどうやって資金調達するのか。蓄えたおカネが投資にまわる仕組みは? 労働者が働いて生み出したおカネは、どのように新たな機械類に、新たな生産手段に生まれ変わるのだろうか。
「個人のパーキャプ口座から、企業に直接貸し付けるんだ」コスティが言った。