世界的経済学者が描く、資本主義の怪物が破壊した本当に大切なもの

地球という惑星の正気を取り戻す思考

規律と美徳を破壊したものの正体

歴史を猛烈な勢いで前に進めた本当の原動力は株式市場ではない、とコスタは言った。エジソンが抱いたような壮大な野心に融資するためには、株式市場は流動性がまったく足りなかった。コスタが改めてイヴァに指摘したように、20世紀の変わり目にあれだけの発電所、送電網、工場や配電網の建設を賄うだけの資金は、銀行にも株式市場にも調達できなかった。あれだけ大きな規模のプロジェクトを軌道に乗せるためには、同じくらい大きな規模の信用ネットワークが必要だったのだ。

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株式保有と技術は手を取り合って、株主が所有する巨大銀行の誕生を促した。巨大銀行は、新たな種類の巨大債務を生み出し、新たな巨大企業に積極的に融資した。そしてそれは、世のトーマス・エジソンやヘンリー・フォードたちに対する、巨額の当座貸越のかたちを取った。もちろん、彼らが借りた資金は実際には存在しない─まだ、この時点では。それどころか、彼らは巨大企業を築く資金を、その巨大企業が将来、生み出す利益から前借りしているようなものだった。

その信用供与枠が生んだ大量の資金は、製鋼法のベッセマー転炉やパイプライン、機械、送信機を製造し、ケーブルを設置しただけではない。企業の吸収合併にも使われて、もとの巨大ネットワーク企業を凌ぐカルテルが誕生した。民間とはいえ、旧ソ連のような「計画化体制」が登場して世界中に広がり、大企業家や金融業界の大物が手を組み、みずからのためにみずからが思い描く未来をつくり上げた。それがガルブレイスの言う、大企業のなかの専門家集団「テクノストラクチャー」である。コスティの世界でテクノ・サンディカリストたちが引きずり下ろそうとしたのも、そのテクノストラクチャーだった。

コスタが説明する。「テクノストラクチャーは、20世紀のあいだに何度も制御不能な状態に肥大し、市場の規律や公共の美徳といった考えを圧倒した。ウイルスと同じように、テクノストラクチャーも繰り返し宿主を病気にした。彼らが民間債務を貪欲に求めたことから、1929年に株価が暴落し、1930年代には大恐慌が発生して、第2次世界大戦の悲劇を招いた。その影響を受けて、戦後の各国政府は巨大銀行を去勢し、テクノストラクチャーを鎖につないだ。ところが1970年代初めになると、彼らは軛を逃れて、国の制約を振り払った。やがて彼らを支援し、扇動したのが、サッチャー首相とレーガン大統領が起こした政治的反乱だったんだよ。