資本主義の毒を飲むしか、私たちを貧困から救う道はないのか?

不確かな未来に賭けるより、資本主義を倒せ
ヤニス・バルファキス プロフィール

新型コロナウイルスが暴いた、資本主義の脆弱性

「1980年代初めに、あなたたちが老いぼれの中道派ではなくサッチャーを選んだように、いまの私は株を取引する自由を選ぶ。たとえそのために、息子のトーマスが大人になった時に世界を牛耳っているのが、強大な権力を振るう醜い企業だとしても。完璧な選択なんてありえない、アイリス。私たちはみな、毒を選ばなければならない。手足を縛られた社会のなかで生きていかなくちゃならない。だけど私は、自分の小さな会社の株を売ったり、大企業の株をほんの少ししか買ったりできない社会には生きていたくない。なぜなら結局のところ、私たちを貧困から救い出し、いまも貧困に喘ぐ数百万人を救い出す現実的な可能性を与えてくれるのは、株の取引しかないからよ」

「考えてみて、アイリス」イヴァがさらに問いかける。「確かに2008年はひどい年だった。でも、この1世紀の技術の進歩に驚かないのはミドルクラスの偽善者だけ。そしてその1世紀のあいだに、数十億人が貧困を脱して大きな安堵を感じ、さらには安い服や充分な食べ物から、ほかの人たちとつながるスマートフォンまで、いろいろな利益も望めるようになった。それが可能になったのは、株取引によって現在が未来から借り入れができ、これまでよりも豊かな生活を送れるようになったから。株取引がなければ、企業はコスティの世界のように、資金調達をすべて借り入れで賄わなければならない。もしそうなら、私たちはいまも16世紀と同じような暮らしをしてるはず」

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「あなた、2008年の金融危機から本当に何も学ばなかったわけ?」アイリスが訊く。「存在しないおカネを融資する免許と株式市場とが結びついた時、破滅へと続くハイウエイが生まれる。すべての企業の所有が、ごく一部の人間の手に集中するだけじゃない。経済が根本的に不安定になる。なぜか。それは、未来が愚か者の賭けだからよ、イヴァ! 未来は『うまく行けば』とか『もしかしたら』とか、せいぜい『ひょっとすると』という可能性にすぎない。資本主義は債務で私たちを惑わし、未来はこれまでとは違うと請け合ってきた。

5年前に新型コロナウイルスによって債務バブルが弾けると、資本主義の途轍もない脆弱性が露になった。ウイルスは、2008年以降の回復に伴うあらゆるナンセンスにとどめを刺した。そして2008年の時と同じく2020年のあとに資本主義が証明したみずからの能力は、自然淘汰の興味深い逆転現象だった。つまり、銀行の破綻規模が大きく、損失額が大きければ大きいほど、巨額の公的資金を注入されて、社会の剰余金を手に入れる能力も大きかった。資本主義よ、汝の名は『バンクラプトクラシー』なり。破綻規模の大きな銀行による支配のこと」