生きていく上で、ほんとうに大切なものは何か。心地よい暮らしとはどんなものなのか。
世界的な疫病の流行や、侵略戦争の勃発などによって、人々の“暮らし”や“生活”にまつわる価値観が大きく変化してきている昨今。“日本のものづくり”にフォーカスしながら、上質の、新しい価値を発信していこうというプロジェクトが、2019年、東京で発足した。
日本発(Japan’s)の、ほんもの(Authentic)の、心地よさ(Luxury)を意味する造語「JAXURY」(読み:ジャクシュアリー)。この言葉を定義とし、これからの時代に求められる「日本発の感動体験」を発信していくことを目的に、その理念に共感した9人のメンバーによって社団法人として立ち上がったのがJAXURY委員会である。

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(以下SDM)研究科教授で、JAXURY委員会の代表理事でもある前野隆司氏「日本は、世界のどの国よりも早く、経済の豊かさから、精神の豊かさへシフトしている」と話す。その“精神の豊かさ”を、ものづくりの現場の人たちと協力しながら体系化し世界に発信していくことを、JAXURYは志として掲げているのだ。

「日本は、世界のどの国よりも早く、経済の豊かさから、精神の豊かさへシフト」と、前野教授。

昨年には、JAXURYのオフィシャルマガジンである講談社のワンテーママガジン「FRaU」のJAXURY特集号で、世界がときめく日本のラグジュアリーブランド・企業を選定、各部門別に、トータルで100のアワード受賞が行われた。今年は、「FRaU 5月号JAXURY特集号」の発売日である3月24日に、2022年度のアワード授与式とともに、受賞ブランド・企業と共に、“JAXURYとは何か”を探っていくシンポジウムが慶應義塾大学三田キャンパスで開催された。今回はそのシンポジウム&アワードのレポートをお届けする。

慶應義塾大学三田キャンパス正門。シンポジウム&アワードは、ここから入って西側、密にならない800人が収容可能な大ホールで行われた。

そもそもJAXURYは、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(以下SDM)研究科オーセンティック・ラグジュアリーラボで研究されているテーマ「Authentic Luxury」に端を発している。このシンポジウムも、同研究科委員長の西村秀和氏の挨拶から幕を開け、JAXURY委員会の理事でもある隅谷彰宏氏から、研究成果の報告の中で、発足から4年目を迎え、さらにその定義を進化させた「JAXURY」に関しての説明がなされた。

ラグジュアリーとは、贅沢品でも、華美なものでもありません。使っていて、心地のいいものであり、周りと比較することのできない無比なもの。作り手、売り手、買い手……関わる全ての人が、心から良いと思うものであると私たちは考えています」(隅谷氏)

そこで、JAXURYが掲げる10の視点(1:クラフトマンシップ、2:感性、3:信頼、4:本来感、5:唯一無二、6:美、7:日常的な上質さ、8:神話・歴史、9:幸福・僥倖、10:利他)についての説明があり、今回から協力となる文化庁の「日本の美意識が世界の“最上質”を創る」というメッセージともつながっている。この10の視点こそ、慶大大学院SDM研究科オーセンティック・ラグジュアリーラボで「JAXURY」について研究された成果であり、この10の視点をもとに120ブランドが選出され、10の部門別の賞もさらに選出されている。

FRaU5月号JAXURY特集号は、本当に欲しいもの、体験したいものばかり120ブランドがぎっしり詰まった永久保存版の一冊。好評発売中!

続いて、FRaU JAXURY号編集責任の講談社・吉岡久美子が登壇。FRaU5月号の巻頭特集「日本人の身体」で、能楽師の安田登氏が語った「あわいの力」についての講演があり、そこでは、現在YouTubeで公開中の、安田氏の謡に合わせ、俳優の石橋静河氏が即興の舞いを披露している動画も紹介。安田氏は、特集の中で、伝統芸能である能が浮かび上がらせる「おもい」と、現代の価値観の変化をリンクさせながら、自然と人、男と女、意識と無意識などの境界が溶けていく「あわい」(=間、間隔)についてなど、移ろいゆくことが日本の美の美たる所以であることなどを語っている。この記事を作りながら吉岡は、作り手と使い手が共話(自分と相手との境目がなくなって対象と一体化すること)できることが、日本ならではのラグジュアリーの強味ではないかと感じたという。

そして、JAXURY委員9人全員によるアワードの講評が始まる。昨年は100だったアワード受賞ブランド・企業が今年は120に増えた。