
すべてがズレている
浅川博忠 私は今の安倍政権を「ダブル一強」と呼んでいます。つまり政党では自民党、その自民党内では安倍さんが突出している。安倍さんは非常に運がよくて民主党の失政3年3ヵ月のおかげで高い支持率を得たわけです。
ところが、そのことによる慢心から、世論を蔑ろにして今回の安保関連法案の強行採決に走り、一気に支持率が低下した。
これで石破さんや岸田(文雄外務相)さんなどをはじめとした党内のリベラル派の人たちがようやく「安保法制は国民の理解が足りていない」「総理のやり方はおかしいのではないか」と、政権に苦言を呈する動きを見せ始めた。それでもまだ谷垣幹事長なんかは声を上げきれてなくて、独裁体制を許してしまっている。
鈴木哲夫 まったく同感です。これまでは安倍一強の慢心、驕りがあり、党が緩んでいた。党内で議論がないというのは、与党として健全じゃない。
だから、今回、せっかくリベラル派から上がり始めた声を潰そうという動きがあるのは非常に残念。党は議員のテレビ出演をやめさせたり、街頭演説を禁止したりしています。こうした動きは、かえって自民党の活力をそぐと思います。
安倍さんは、朝日新聞や東京新聞の世論調査は気にしていないけれど、読売新聞と日テレ系のNNNの世論調査は気にしています。6月、国会を会期延長した際もNNNの世論調査の結果を知って決めたといわれている。当時は支持が41%で、不支持が39%でした。安倍さんはこんなに差が詰まったのかと側近に漏らしたそうです。
浅川 安倍さんなりに危機感はあり、その結果、抑圧が強くなっていると。
鈴木 はい。ただ、その対応がズレている。安倍さんが世論をつかむ感度に若干問題があると思うんです。
7月15日の強行採決の前に派閥の総会があって、それぞれのボスがいろんな発言をした。その中で石破さんが「なんか自民党、感じ悪いよね」と言った。私はこれがいちばん素直な世論に近いと思うんです。
安保法制そのものが悪いというよりも、国民への説明が足りないことや、法案審議の進め方が横暴に見えるというのが世間の批判でしょう。ですが、安倍さんは安保法制の中身についてばかり説明しています。これはピントが外れていると思う。党幹部もこれをわかっていない。
この状況は、第一次安倍内閣の時に雰囲気が似ています。'07年当時、支持率がどんどん下がってくる中で7月の参院選を迎えることになった。その時、ちょうど新潟県中越沖地震が起きて、安倍さんはチャンスとばかり、ツナギを着て被災地を回った。すると、支持率はさらに下がったんです。国民には、被災地訪問が人気取りだということが見え見えだった。
今回も強行採決をやったあとに新国立競技場のプラン見直しを発表したけれども、支持率は回復していない。安倍さんのやっていることは逆効果になっている可能性もある。危うさを感じます。